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「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はテーマパークのアトラクションだ【ネタバレ有】

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先日遅ればせながら「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」(以下、劇ス)を鑑賞してきました。
いやー凄い映画でした。
終演も近そうですがぜひ皆さんも見てください。できればテレビアニメも全部見てから。

さて、この記事では私が劇スを見て感じたこの作品の「アトラクション性」について書いています。
(ここで言うアトラクションは、遊園地、特にテーマパークの遊戯施設のことです。)
最初はただ感想を書くつもりが、どんどん脱線してよく分からない記事になりましたが、どうぞお付き合いください。

注意!
「劇場版 少女⭐︎歌劇 レヴュースタァライト」のネタバレを含みます。
ここに書いてある事は全て私の勝手な解釈です。お前の解釈がお前の中で正しい。

劇スはアトラクションだ

劇ス鑑賞後……矢継ぎ早に拳でボコボコに殴られたような衝撃
本当はこの余韻に浸りたいところでしたが、放心状態で流されるように映画館を出ました。
まるでテーマパークのアトラクションに乗った後のような、映像を見た後らしからぬ不思議な満足感
「こういうのを見たかったんだろ?」と言わんばかりに、圧倒的なエンターテインメントを見せつけられました。完敗です。

その展開の多さ・速さ・衝撃さは誰もが見れば明らかですが、「トマト」「電車」といったアニメ版には無かった重要なモチーフが多数登場するのが印象的でしたね。
アニメを見てレヴュースタァライトを分かっていた気で見ていたら、一瞬油断しただけで何が何だか分からなくなるような……
とにかく良い意味で気の抜けない2時間でした。

そういえば、Twitterでもジェットコースターのような映画だったと言う感想が散見されます。
確かにその展開の速さと濃密さはジェットコースターと形容するに相応しいですが……
どうもそれだけでは無いような気がしてなりません。

(自称)無類のアトラクション好きの私としては、何故このような感覚が想起されるのか不思議で仕方がなく……
どうせこの映画の考察記事なんてインターネッツに溢れているんでしょうから、私はテーマパークの視点から、劇スのアトラクション性について考えてみました

パークアトラクション(PA

劇スのアトラクション性を考えるにあたって、まずはテーマパークのアトラクションのことを考えてみます

テーマパーク(遊園地ではない)のアトラクションの事は、パークアトラクション(PA)と呼ばれています。
PAの特徴は何か、と考えてみると……

  • トップダウン:ある表現したいテーマに基づく物語から作られている
  • 没入感:来場者は自らが何らかの形で物語の一部になる(ような感覚になる)
  • ノンインタラクティブ:一般的には来場者は物語に介入できない
  • 非日常:通常には体験できないような場面や状況を描く

と、個人的にはこんな感じ。
本当は一般的な議論ができれば良いのでしょうが、ここは私の感想を書くところだから許してクレメンス。

それぞれについて、劇スではどうなのか見ていきましょう。

トップダウン

実は大きく見れば、PAと映画は制作手法が同様にトップダウン的であると指摘されています。
つまり、スタァライトが云々以前に、根本的にPAと映画は似た所があるということですね。

なので劇スからは少し離れた話を少しだけさせてもらうと……
これはそもそも、映画が後述するノンインタラクティブな作品であることが影響しています。
映画やPAといったノンインタラクティブな作品は、ある表現したいテーマがあり、それを印象付けるシナリオに基づいて制作されます。
対してゲームに代表されるインタラクティブな作品は、観客主体で、参加したいと思えるような作品作りや、ゲームとしての面白さが重視され、前者とは全く異なる制作手法がとられる訳です。

没入感

劇スを見た時、スクリーンの前からではなく、作品の中から作品を鑑賞しているような感覚を覚えました。
そしてこれは、PAにおける没入感にとても似ているように感じました。
ここには、メタフィクション的な設定音響表現が関わっている気がします。

まず、作品内のあらゆる演出が、この映画を見ている我々の存在を前提としている……
そう考えるとスッと腑に落ちるような場面が実に多く感じました。
この作品のテーマである演劇にはそもそも、観客が必要。
スタァライトには、観客の存在を象徴しているキャラクターであるキリンが登場しますが、劇場版ではアニメ版ほど出番は多く無かったように感じます。
そういう点で、このレヴューの観客はこの映画を見ている我々なのだという意識を強く持ちました。
我々がずっと見ているという意味で、「私たちはもう舞台の上」はまさにそれを象徴しているワードに見えますね。

次に音響表現。
この映画のサラウンド音響は実に生々しく感じました……
徹底してカメラを基準とした単純で立体的な音響が為されていて、カメラと観客が視点を共有しているように演出されます。
これが自分が作品の中にいるような感覚を想起させている訳です。
「この作品は映画館で見ろ」と言われる所以の一つでしょうね。

ノンインタラクティブ

映画は当然、ノンインタラクティブ
つまり、我々は物語に介入することは出来ず、決められたシナリオをなぞるだけです。
これは決められたレールの上を行くPAと同じで、当然です……

……当然なのですが、劇スは他の映画と比べても「自分には何をする余地もない」という感覚を強く持ちました

劇場版のレヴューでは、アニメ版のそれ以上に、彼女たちの強いエゴがぶつかり合っていると感じました。
ボタンを外して上掛けが地面に落ちてもレヴューが終わらないなど、アニメ版とのルールの相違点も目立ちますし……
大場ななの「これはオーディションではない」というセリフも相まって、劇スでは彼女らの勝手なルールに則って、自分勝手にエゴをぶつけ合っている……ように私には見えました。
しかも観客たる(映画館で見ている)我々の存在を認知した上で、敢えてそうしている……?
そういう彼女らの勝手さが、この作品がノンインタラクティブである事を、他の作品より強く印象づけていると感じました。

ちなみにノンインタラクティブ性をPAの特徴として挙げましたが……
最近はxR技術の進化でインタラクティブPAも増えつつあります。今後のますますの進化に期待ですね。

非日常

これは見て明らかですが、スタァライトにおけるレヴューはまさに非日常の場面です。
テーマである「演劇」自体が非日常を表現する一面もありますから、これは必然でしょうか。
劇スは特に、後半はシーンのほとんどがレヴューで、日常的な描写はほぼありません。
その上、最後は東京タワーが突き刺さった荒野の場面から日常のシーンに戻ることなくエンディングを迎えますから、私は相当な非日常感を印象付けられたまま遂に映画を見終わりました

また、展開の速さ、場面の移り変わりやキャラクターの感情・動作の緩急も凄まじいものがあります。
特に後半は入れ代わり立ち代わり様々なレヴューが開演し、場面は目まぐるしく移り変わります。
ジェットコースターのような映画だと形容されるのはこういう事でしょう。
スピード感や緩急はPAに必ずしも必要なものではないのですが……(穏やかなライドアトラクションも多く存在します)
ただ、やはりアトラクションと聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのはジェットコースターでしょうから、この点が劇スのアトラクション性を高めているのは言うまでもないでしょう。

そもそも、アトラクションと映画は似ている

劇スについて言及する以前に……
そもそもPAと映画というのは共通点も多いものであるという事が、ひとつひとつの要素を分解すると分かります。
ただそのひとつひとつの要素が効果的な演出によってより強く印象付けられ、それが積み重なっていくことで……
劇スは唯一無二の高いアトラクション性を持った作品へと昇華されていると感じました。

これはアトラクション好きの私個人の意見ですが……テーマパークのアトラクションというのは、最高のエンターテインメント体験だと思っています。
何故ならば、そこでは物語・音楽・ビジュアルが高いレベルで具現化している上、さらに観客に物理的な動きをもって訴えかけることが出来るから。
だからこそ、それに似た感覚をスクリーン一枚で与えられるこの「劇場版 少女⭐︎歌劇 レヴュースタァライト」という作品は、とんでもない「極上のエンターテインメント」だと思いました。

おわりに

競演のレヴューで露崎まひるに怯える神楽ひかりが可愛くて、良かった。