この記事はみす51代 Advent Calendar 2021の5日目の記事です。
こんにちは、naka3です。
突然ですが、皆さんは仏教や仏像に興味がありますか?いえ、勧誘とかではなく。
多くの人にとって縁遠いものでしょう。今の日本は事実上無宗教国家ですから。
かく言う私も信者ではありませんが、純粋にコンテンツとしての「仏教」が好きです。
仏教を宗教だと捉えるから、お堅く感じてしまうのです。
人間がこれまで数千年にわたり受け継ぎ紡いできたバカデカいメディアミックスコンテンツだと思えば、ちょっと面白そうじゃないですか?
まぁこんな捉え方が適切かはともかくとして、私はそのように楽しんでいる訳です。
さて、今回は数千年にわたり多くの創作者により紡がれてきた仏教というコンテンツを紹介するにあたり……
今回はそこに登場する多くのキャラクターたちを、ザックリと紹介してみようと思います。
皆さんが修学旅行などで何気なく目にした仏像さんたち……ちゃんと全てに名前があり、役割や性格があります。
奈良の大仏は毘盧遮那如来さん、鎌倉の大仏は阿弥陀如来さん、仙台の大観音は観音菩薩さんを、それぞれ言わばフィギュアにしたものです。
仏教を彩るバラエティ豊かな登場キャラクターたちを、一挙ご紹介です。
◆前提知識:仏教と仏像
キャラクター紹介を始める前に、仏教についてザックリ紹介。
仏教は、紀元前500年頃にインドの王子、ガウタマ・シッダールタ(釈迦)によって開かれました。
衆生(すべての生き物)が「生きる苦しみ」を抱える迷いの世界で、釈迦は紆余曲折を経て死を超越した精神状態「悟り」を得て真理の世界へ到達しました。
なので、仏教の教えは「生きることは苦しみであり、その原因である煩悩を無くすことで救われる」という禁欲的なもの。元来、呪術的なものでなく精神修行のような信仰です。
釈迦の入滅(死ぬ事)から暫くして、釈迦の姿を見て拝みたいという人々によって釈迦の像が作られるようになり……これが、仏像の始まり。
以後、信仰の対象として多くの仏像が作られることになります。
仏教は人々のニーズの変化など様々な影響を受けながら形が変わり、様々な国へと伝わっていきます。
古来の仏教「上座部仏教」は東南アジアの方へ、複雑さを増した「大乗仏教」は中国を経て日本の方へ。
特に大乗仏教では様々な宗派が誕生し、その中で様々な仏様も登場するようになる訳です。
仏教が日本に伝わったのは500年代中頃。
当時の日本には既に日本の神様がいましたが、神道と仏教を異質なものとしない「神仏習合」の考え方が浸透し共存の道を歩み、独自の信仰が築かれました。
◆仏像のグループ
仏様は以下の4(+1)のグループに分かれます。
それぞれのグループにたくさんの仏様が所属し、時にグループの垣根を越えて助け合いながら、我々を救ってくれます。
ありがたいですね。
ということで、ここからはグループごとに、作例が多い仏様を中心に紹介していきます。
以下、ガイドラインです。
○名前(読み方など)
簡単な紹介、基本ここだけ読めば良いです。
少し詳しい補足説明、ちょっと興味ある人向け。
仏像を見られる場所の紹介。
◆如来(にょらい)グループ
悟りを得て真理の世界へ辿り着いた仏たちで、言わば仏界のスーパースターたちです。
仏となった釈迦がモデルで、シンプルな衣装を纏います。
○釈迦如来(しゃか-)
インド古来の仏教である上座部仏教では、釈迦のみが信仰の対象となる。
作例多数。飛鳥寺(奈良県明日香村)のものは現存する日本最古の仏像と言われている。
Domon Ken / Kitagawa Momoo / Miller, Roy Andrew, Public domain, via Wikimedia Commons
○阿弥陀如来(あみだ-)
他力本願とは本来、阿弥陀如来頼みで成仏すること。そのように南無阿弥陀仏と唱えることのみで極楽に往生する信仰を専修念仏と言う。
作例多数。五劫院(奈良県奈良市)、道成寺(和歌山県日高郡日高川町)などでは、考えすぎて頭がアフロのようになったユニークな仏像「五劫思惟阿弥陀如来」が見られる。
Dirk Beyer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
○薬師如来(やくし-)
来世の極楽往生を説く阿弥陀如来と対照的に、現世利益(この世で得られるご利益)をもたらす仏。日光菩薩・月光菩薩という看護師と共に安置されることもある。
薬師寺(奈良県奈良市)、新薬師寺(奈良県奈良市)、東寺(京都府京都市)、法隆寺(奈良県生駒郡斑鳩町)など作例多数。
撮影・小川一真, Public domain, via Wikimedia Commons
○毘盧遮那如来(びるしゃな-)
毘盧遮那は太陽の意味で、その大きな光で全宇宙を照らす。
「奈良の大仏」で知られる東大寺大仏殿(奈良県奈良市)のものや、唐招提寺(奈良県奈良市)のものが有名。
○大日如来(だいにち-)
宇宙の中心。如来界きってのオシャレ好き。
密教において毘盧遮那如来と同一視される最高仏。豪華に着飾っており、質素な服装が多い如来の中では異質。
高野山金剛峯寺(和歌山県伊都郡高野町)、東寺(京都府京都市)など。円成寺(奈良県奈良市)のものは超有名仏師である運慶のデビュー作。
Unkei, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
◆菩薩(ぼさつ)グループ
悟りを得たものの敢えて真理の世界へ行かず、迷いの世界にとどまり我々を救い続ける超ありがたい仏様たち。
王子時代の釈迦がモデルで衣装がゴージャス。
ここで紹介するもの以外にも、普賢菩薩、虚空蔵菩薩など有名な仏様がいます。
○弥勒菩薩(みろく-)
如来になることが約束された菩薩界のエリート
釈迦の入滅から56億7千万年後に仏になり、我々の目の前に現れるとされる。「弥勒如来」として仏になった姿が安置される場合も。
広隆寺(京都府京都市)、中宮寺(奈良県生駒郡斑鳩町)など。弥勒如来像の作例としては當麻寺(奈良県葛城市)、興福寺北円堂(奈良県奈良市)などが有名。
日本語: 小川晴暘 上野直昭English: OGAWA SEIYOU and UENO NAOAKI, Public domain, via Wikimedia Commons
○観世音菩薩(かんぜおん-)
様々な姿に変身し、悩みや願いがあればすぐ駆けつける「観音様」
古来から人気が高く作例の多い菩薩。人々の様々な願いに対応するため、多様な姿で作られた。ここで紹介する3種の観音様以外にも、不空羂索観音、如意輪観音、馬頭観音、准胝観音などが存在する。
・聖観音(しょうかんのん)
尊名としては「観世音菩薩」だが、変化観音と区別するため、よく聖観音と呼ばれる。
法隆寺(奈良県生駒郡斑鳩町)には「救世観音」「百済観音」「夢違観音」といった、ニックネームのついた観音様が多く安置されている。
Michael Gunther, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
・十一面観音(じゅういちめん-)
怒った顔、笑った顔、穏やかな顔など表情豊かな11の顔で、あらゆる方向を観察し、あらゆる人々を救うとされている。
聖林寺(奈良県桜井市)、法華寺(奈良県奈良市)、向源寺(滋賀県長浜市)作例多数。
OGAWA SEIYOU, Public domain, via Wikimedia Commons
・千手観音(せんじゅ-)
実際には40本の手を持つ作例が多い。手1本につき25の世界(三界二十五有)を救うことで、千の世界を救うことになっている。
作例多数。三十三間堂(京都府京都市)には実に千体もの千手観音立像が並ぶ。唐招提寺(奈良県奈良市)や葛井寺(大阪府葛井寺市)のものは本当に腕が千本近くある。
Bamse, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
○文殊菩薩(もんじゅ-)
「三人寄れば文殊の知恵」ライオンに乗って現れる、知恵を司る菩薩。
知恵で悟りの世界へ導く。持っている剣は知恵の象徴であり、獅子(ライオン)に乗る姿で表されることが多いが、そうでないものもある。
興福寺東金堂(奈良県奈良市)など。安倍文殊院(奈良県桜井市)の渡海文殊群像は海を渡る文殊菩薩の姿を表している。
Kamakura-period sculptor(s) (1185-1333); photo by Ogawa Kazumasa, Public domain, via Wikimedia Commons
○地蔵菩薩(じぞう-)
地獄を含む六道全ての世界に輪廻して苦しむ人々を救う仏様。そのご利益から人気が高く、日本では村の境の道端などに道祖神として祀られていることも多い。
日本全国の路端などに石仏の作例が非常に多い。六波羅蜜寺(京都府京都市)など有名な作例も多数。
Tokyo Bijutsu Gakko, Public domain, via Wikimedia Commons
◆天(てん)グループ
古来インドの神様たちが、仏教に取り入れられたお姿。
仏様や信者を守るガードマン。
○梵天(ぼんてん)・帝釈天(たいしゃくてん)
仏法や仏教徒を守る天の二大リーダー
古代インドにおける宇宙創造の神ブラフマンと、最強の戦闘神インドラが仏教に取り入れられたもの。対となって釈迦如来とともに祀られることが多い。
作例多数。東大寺法華堂(奈良県奈良市)、唐招提寺(奈良県奈良市)、東寺(京都府京都市)のものなどが有名。
SLIMHANNYA, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
○四天王(してんのう)
多聞天、持国天、増長天、広目天からなり、邪鬼を踏みつける姿で作られる。
作例多数。法隆寺(奈良県生駒郡斑鳩町)、東寺(京都府京都市)、東大寺戒壇堂(奈良県奈良市 ※現在は東大寺ミュージアムに安置)のものなどが有名。
SLIMHANNYA, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
○毘沙門天(びしゃもんてん)
四天王の構成メンバー、多聞天のソロ活動
四天王のリーダーである多聞天は独尊で祀られる場合は毘沙門天と呼ばれる。七福神を構成する一神である。
鞍馬寺(京都府京都市)など。東寺(京都府京都市)などでは、地天女と鬼に乗って地面から出現した伝説をもとに作られた兜跋毘沙門天立像が見られる。
663highland, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
○金剛力士(こんごうりきし)
仏敵を退散させる武器「金剛杵」を持ち、通常、口を開けている「阿形」口を閉じている「吽形」の二体で祀られる。仁王とも呼ばれる。
東大寺南大門(奈良県奈良市)など。東大寺法華堂(奈良県奈良市)の執金剛神立像は一体で祀られる珍しい例。
663highland, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
○十二神将(じゅうにしんしょう)
薬師如来のガードマン(シフト制)
各2時間ずつ担当で合計24時間、薬師如来とそれを信じる人々を守ってくれる十二の神様。十二支に割り当てられ信仰されることが多い。
新薬師寺(奈良県奈良市)、興福寺東金堂(奈良県奈良市)など。興福寺国宝館(奈良県奈良市)にはユーモア溢れる姿で板に彫られた十二神将を見ることができる。
Imperial Japanese Commission to the Panama-Pacific International Exposition, Public domain, via Wikimedia Commons
○八部衆(はちぶしゅう)
バラエティ豊かな姿が魅力の釈迦如来の部下
古来インドの8体の神が仏教に取り入れられたもので、仏法やそれを信じる人々を守護する。
興福寺国宝館(奈良県奈良市)のものが有名。中でも阿修羅像は仏像界屈指の人気を誇る。
日本語: 小川晴暘English: OGAWA SEIYOU, Public domain, via Wikimedia Commons
○吉祥天(きちじょうてん)
中国の貴婦人の姿で作られ、毘沙門天の夫でもある。ちなみに東京の地名である吉祥寺とは特に関係がない。
浄瑠璃寺(京都府木津川市)、鞍馬寺(京都府京都市)など。吉祥院天満宮(京都府京都市)など神社で祀られる例も。
日本語: 光村美術出版English: Anonymus, Photo:MITSUMURA ART Publishing Co., Public domain, via Wikimedia Commons
○弁才天(べんざいてん)
もともとは水の神で、水にまつわる場所に祀られる例が多い。農業・音楽・智慧・富など多くのご利益を持つ神で、近年は財宝のご利益を強調して「弁財天」と称されることも。七福神の一神。
宝厳寺(滋賀県長浜市)、大願寺(広島県廿日市市)、江島神社(神奈川県藤沢市)が日本三大弁天と呼ばれ、寺でも神社でも祀られることがある。
663highland, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
◆明王(みょうおう)グループ
迫力のあるお姿で、いつも怒っていてちょっと怖い、密教由来の仏様。
でも実は怒ることで仏の教えへと導いている、我々のことを思って叱ってくれる仏様。
○不動明王(ふどう-)
人々を救うまで絶対にここを動かない、明王界不動のリーダー
「お不動様」として人気の高い仏様で、全ての悪を焼き尽くし、仏の教えに従わない人を導いてくれる。
作例多数。東寺(京都府京都市)の立体曼荼羅では不動明王・降三世明王・軍荼利明王・大威徳明王・金剛夜叉明王からなる五大明王像を見ることができる。
Sailko, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
○愛染明王(あいぜん-)
仏教では煩悩を断ち切ることが基本だが、愛欲は煩悩の中でも特にエネルギーが強く絶ち難いとされているため、愛染明王は敢えてそれを断ち切らず利用して悟りへと向かわせようとしている。
仁和寺(京都府京都市)、西大寺(奈良県奈良市)など。
Daderot, CC0, via Wikimedia Commons
◆その他
悟りを開いた人々や仏教の発展に貢献した偉人たちは、仏様ではないですが、時に彼ら自身が信仰の対象となりました。
○阿羅漢(あらかん)
釈迦の主要な弟子(十大弟子)や最高位の僧など。複数で祀られることが多い。
興福寺国宝館(奈良県奈良市)の十大弟子像が有名。五百羅漢寺(東京都目黒区)や川越大師喜多院(埼玉県川越市)ではズラッと並んだ五百羅漢が見られる。
w00kie(https://www.flickr.com/photos/w00kie/), CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
○高僧など
鑑真和上、無著・世親といった高僧や、空海、最澄といった宗派の祖師、僧ではないが仏教で国作りを行った聖徳太子など、仏教の発展に貢献した偉人たちが信仰の対象となり、像が作られた。
興福寺北円堂(奈良県奈良市)の無著・世親像、唐招提寺(奈良県奈良市)の鑑真和上像、法隆寺(奈良県生駒郡斑鳩町)の聖徳太子像、六波羅蜜寺(京都府京都市)の空也上人像など、有名な作例が多数存在する。
OGAWA SEIYOU(1894-1960) a famous photographer in Japan}, Public domain, via Wikimedia Commons
◆仏像の楽しみ方
まだまだ紹介したい仏様は山ほどいるのですが、記事が大変長くなってきたので、この辺りで締めときましょう。
皆さんが京都・奈良の修学旅行で何気なく見てきたかもしれない仏様ですが、それぞれキャラクターがあり、ユニークな容姿があり、そして何より個性豊かなご利益があります。
そこで、最後に私の仏像の楽しみ方を紹介します。
1.キャラクターを調べる
仏様のご利益を知り、性格を知り、何故このような容姿になっているのかを知る。
2.造形を見る
表情や衣装などを観察し、美術作品を鑑賞するように楽しむ。
3.時代を感じる
仏像が作られた年代を知ることで、数百年の間多くの人によって信仰され守られてきたという歴史を感じる。
4.意図を考える
なぜこの仏様がここに安置されているのか、仏師は何を考えてこのような容姿に作ったのかを考え、調べる。
私も、家族に連れられ無理矢理仏教に触れてから、実際に好きになるまで、十数年の歳月かかかりましたから、皆さんに「さぁ、仏教を好きになって!」などと言うのは烏滸がましいことですが……
この記事を見て少しでも仏教に興味が湧いたのであれば、これ以上ない幸せですね。
駄文失礼しました。
明日はげんたろう先生のターンです、お楽しみに!